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My Hakone Time by 天悠

作家LiLyの箱根を舞台にした書き下ろし小説「ツグミとわたし」後編
作家LiLyの箱根を舞台にした書き下ろし小説
「ツグミとわたし」後編

休日のある日、ひょんなことから学生時代の友達「ツグミ」と2人で

箱根の「天悠」に一泊することになったわたし。

親友でも、恋人でもないけれど、いつも気になる存在だった

「ツグミ」とわたしが「天悠」で目にしたものとは?

女性誌での連載や月9ドラマの脚本協力など、

オトナ女子の心を捉えた描写が人気の作家LiLyが描く

週末の旅情をくすぐるラブストーリーの後編です。

 

>>前編はこちらから<<

文・LiLy

イラスト・maegamimami

 

 

『————朝、目覚めたときには想像もしていなかった夜を、迎えていることに気づく瞬間がとても好き』

まさに、今だ••••••。

ツグミが運転するレンタカーの助手席から暗い山道を眺めていると、昼に読んだ作家の言葉が頭の中におりてきて、なんだかとても、不思議な気持ち。

ラジオから流れる女性アナウンサーの声が、さきほど通過したばかりの厚木インターチェンジが混雑している、と伝えている。

カフェでツグミを待っている時にたまたま読んだ、インタビュー記事。その作家と、偶然ツグミは一緒に仕事をしていて、彼女の子どもが急に熱を出したことで、今、私はツグミと箱根に向かっている。

「••••••」。伝えようかと思ったけれど、運転中のツグミの横顔に視線を向けたところで、口をつぐんだ。

声に出した瞬間に、この不思議さが消えてしまうような気がした。ううん、というよりも、妙な照れから「偶然」という言葉をたくさん使って、自らソレをかき消してしまいそうだった。

————だから、やめた。

「ん? 大丈夫?」

ツグミが、黒目だけを私の方へと流して聞く。

「••••••ん?」

聞き返してから視線を反らすと、「ん? じゃなくて」とツグミが笑う。ツグミは笑うとき、鼻のあたりをクシャッとさせる。

「酔わない? 大丈夫?」

急に顔がこちらに向いたからなのか、優しくされたからなのか、耳のあたりが熱くなったのを感じて、

「••••••酔った、うん。少し」

ひとりごとのように唱えながら、窓の方へと顔を逃がす。額のあたりを冷たい空気が吹き付けて、髪が後ろに飛ばされて、ツグミが黙って窓を開けてくれたことを知る。

薄暗く、霧がかった空気は、土の匂いがする。

車はヘアピンカーブをくねくねと曲がり、私たちの肩がそのたびに左右に揺れる。たったそれだけのことで、同じ部屋で過ごす夜がくることを、意識してしまう。揺れるたびに、強く、意識してしまう。

そんな自分を、恥じている。

だって、身近な男友達を恋愛対象へと引きずり込もうとするほどに、私はナニかにそんなにも、飢えていたの?

シニカルな自分にそう問いかけられながらも、私はこの夜に、ナニかを、期待しているのだ。••••••。

火照った顔面を叩くような冷たい風の中で、目を閉じる。

それこそ今朝目覚めたときは、久しぶりにツグミと会う、と思っていただけだったのに、どうしたの?

動揺している心に、問いかける。

でも、ZARAで買ったまま一度も袖をとおしていなかったワンピースを、確かにおろしたのだ。ロングスリーブの、黒でミニ。予定などないいつかのデートに、良さそうだと思って買ったもの。

その時点で、ツグミは異性だという意識は、確実にあったことになる。

もっと言えば、十年前に大学の教室に入ってきたツグミを見た時、思ったのだ。「いいな」って。恋愛対象に入るか否かでいえば即答でイエスだったけど、次の瞬間にノーへとギアが入れ変わった。

 

ツグミの隣には、すでにアリサがいたからだ。

 

「優子、もし吐きそうだったら言って。あ、でも、もう着くよ」

隣から、私を気遣うツグミの優しい声がする。

あれから十年という時間が流れ、それでも何故か縁が切れなかった不思議を思う。

胸が、キュウッと締め付けられた。

「あ、もう、すっかり平気。ありがと!」

努めていつも通りの調子で答えながら、頭の中の声を振り落とすように小さく首をふる。

ダメだ。何をしているのだ。

冷静になろうと思ったのに、ただでさえ揺れている心に恋する理由をあたえて、どうする。

そもそもツグミは、突然泣き出した“友人”を元気づけるために“ロケハン”に同行させてくれただけなのだ。まるで、一泊旅行に誘われたかのように勘違いしかけていた自分に、ハッとして苦笑する。

アブない。うん、アブないところだった。

頭の中の声がギリギリのセーフを告げたところで、車がゆるやかなカーブを描いて旅館の敷地内へと入り込む。

 

————『天悠』。

 

暗闇の中、車のライトが一瞬照らし出した看板に、「なんて、読むの?」とツグミに聞くと、

「テンユウ」。

低い声でゆっくりと発音されたその音を、私は何度も頭の中で繰り返す。

これから部屋に入ると思うと速まる脈を、落ち着かせるために。ううん、ほんとうは、明日の朝ここを出る時には起きているかもしれない変化を願う、おまじないの言葉のように。

 

フロントカウンターで、旅館の人と仕事のはなしをしているツグミは、今まで見たことのない顔をしていた。今更だけど、彼の仕事にノコノコとついてきてしまったことを少し気まずく、でもどこか誇らしく、そして最後には恥ずかしく思った。

私のことを大学の同級生だと簡単に紹介していたが、宿泊するという事実からして、それ以上の関係を疑われてもおかしくはない状況だ。相手の表情からも、戸惑いが読みとれた。でも、当のツグミだけは、何も気にしていない様子だった。

昔から、ツグミにはそういうところがある。大学時代も、仲間内のジョークっぽいホンネとして、よく「KY」だとか「天然」だとか言われていた。一般常識よりも自分のしたいことを優先した選択に周囲が驚いていてもなお、本人には悪気がないので平然としているのだ。

そのような器を、誰よりも持ち合わせていないのが、この私。

「••••••すみません。関係ないのに私まで」と、喉まで出かかった言葉を呑み込んで、兄の後ろに隠れる妹みたいに小さくなった。静かに、気配を消すのは得意なので、そうしていようと思ったのに、

「ぅわッ!」

案内された部屋に入ると、ツグミが思わず振り返るほどの声をあげてしまった。

まず、目に飛び込んできたのは、広い空間を仕切る大きな円。リビングと和室のあいだに、深くも鮮やかなグリーンの壁があり、その真ん中が大きく丸くくり抜かれているのだ。ガラス戸の向こうには、バルコニー。そこには、「この部屋専用の露天風呂がある」という。

説明を終えた係の人が部屋のドアを閉めた音を、私はきちんと耳で聞いた。

夕方に、新宿の路上で缶コーヒーを飲んでいた私とツグミは、ほんのりと甘い木の香りに包まれた贅沢な空間の中に、今、並んで立っている。

「ツグミ、私、こんな高級なところ、初めてきた••••••」

すぐ近くにいる友達を、遠い世界の人みたいに感じて言った。今回は仕事とはいえ、ツグミはいつも彼女とも、こんなところにきているのだろうか。

「ね、俺も写真では見ていたんだけど、想像以上に••••••」

感動していたのは私だけではなかったらしく、ツグミは立ち尽くすようにしてそこまで言ってから、部屋の中を歩き出した。

「なんて言うんだろ、美しく洗練された和室ってさ、」

喋りながら、作家に送るのだろう、ケイタイで写真をバシャパシャ撮っている。その作業に集中したからか、途中でツグミの言葉が止まる。

「洗練された、和室って?」

バルコニーへと出たツグミの後を追っていって聞くと、

「ああ」

私のほうを振り返って、ツグミが言う。

「豪華な洋室では決して出せない、胸に迫り来るような色気があるね」

「••••••うん。ほんとうに、そうだね」

心から同意しながらも、また少し卑屈になってしまった。高級だ、という一言しか出なかった私に対して、ツグミの言葉は素敵だった。そして、そんな色気のある空間にツグミといるのに相応しいのは、私ではないような気持ちになった。

「よかったの? 私なんか、連れてきちゃって」

悲観的な台詞を吐くことでしか、相手から肯定の言葉を引き出す術を持たない、自分がイヤだ。

「え、なんでよ」

部屋の美しさに圧倒されて飛び跳ねそうだったところから、一気にシンミリしてしまった私のいつもの悪い落差を、ツグミは優しく笑って受け流す。

「ちがくて、ほら、仕事の視察なのに、異性を連れて一泊って、そういうふうに誤解されちゃうかもよって、そういう意味も含めて、その••••••」

何故か焦って早口になった私に、大丈夫だよとでも言うように微笑んでから、ツグミが言う。

「俺、別にヘンな人だと思われても、自分のしたいようにするよ?」

「••••••ッ」

「関係なくない? 写真いっぱい撮って送れば作家さんも喜ぶし。女の子ときたって言ったほうが、LiLyさんの場合はだけど、絶対に超喜ぶな」

「••••••」

私が務めている保険会社とは、いる業界がまるで違うことを改めて感じて驚いた。でもそれ以上に、女の子、と呼ばれたことが嬉しかった。

「仕事は仕事だけどさ、自分のしたいように楽しめばよくない? 結果をだせばいいんだし、楽しんで生きることは最終的に、仕事のいい結果にも繋がるよ。俺はそう、思うんだよね。正解かどうかは、わかんないけどさ」

「••••••そっか」

私も、そんなふうに思えたら、ツグミみたいに生きることができていたら、「お前といると息がつまる」という言葉とともに捨てられることも、きっとなかった。••••••。

「だって、よかったよ」

キラキラとした瞳で部屋を見渡しているツグミには、私の頭の中はまったく見えない。それでいいのに、それではイヤで、自分が分からなくなってくる。

深いため息を吐いてから顔をあげると、ツグミの目線が、私の前でピタリと止まった。

「さっき、この部屋を見た時の優子の目、漫画みたいにキラッキラに光っててさ」

思い出しているように目を細めて話し、最後に目尻を下げてクククと笑う。ツグミもまた、漫画にでてくる男の子みたいだと、私は思って聞いている。

「俺、久しぶりに見た気がする、そんなふうに生き生きとした優子の顔。だから、他人にヘンなヤツだと思われたって、やっぱり優子をここに連れて来てよかったよ」

  • •••••。昼間のカフェで起きた発作と同じような感覚で、今にもブワッと泣き出してしまいそうだった。

「••••••ありがと。わ、私、お風呂いってくる」

涙を堪えるがあまり、唇が震えてしまう。ツグミに気づかれたくなくて、私は視線を、黒いストッキングを履いた自分のつま先まで落とす。

「そこ、どうぞ」

バルコニーの露天風呂のことを言っているのだと分かって、それだけでもうツグミのほうを向けなくなった。

女として意識されているようで、期待してしまいそうで————。

心を揺さぶられたことで、もう堪えきれずに涙腺が決壊した。

「なんだよ、優子、ごめんごめん、冗談だって」

慌ててツグミに背を向けて、なんとか泣いていないフリをして、「アハハ」と軽く笑っているかのように肩まで揺らしながら、逃げるようにして部屋を出た。

「ツグミと私」挿絵

涙が、いつまでも止まらなかった。あたりまえのことだけど、お風呂に入るためにハダカになること、そのひとつの行為にすら泣けた。

身体をタオルで包んで外に出ると、各部屋に専用の温泉露天風呂があるからか、人は誰もいなかった。

最上階にある露天風呂は、夜空と湯面が水平線を描いていて、涙越しに見るその画は、まるで夢みたいだった。

真っ黒な夜空に浮かぶ細い三日月を、まるで鏡のように映し出す真っすぐな湯面に、つま先をそっと差し入れる。月が歪んだその瞬間、湯のあまりの熱さに、脚に痺れるような感覚が走った。

痛いほど熱い湯にカラダを沈めると、全身の毛穴がブワッと開いた。

湯の中で身震いしながら、目を閉じる。目に溜まった涙が、頬を伝う。

皮膚が、湯に、馴染んでゆく。開いた毛穴から、疲れという疲れが抜けてゆくような脱力感に見舞われる。

うっとりとまぶたを開くと、視界が星空と湯面で埋まる。その境界線を、白い湯気が、まるで魔法みたいにかすませる。

 

全裸で湯に浮きながら、私は宙を舞っていた。

 

音ひとつしないこの世界は、確かに現実のものなのに、この空間そのものは圧倒的に非現実的。私はこの時生まれて初めて、この世がウソみたいに美しいことを体感した。

未来を丸ごと失ったとさえ本気で思った破局から、一年と少しが経っていた。「もう生きていたくない」と思わずにはいられなかったいくつもの夜が、白い湯気と共に夜空の彼方に昇ってゆく。

破局を生き延びることができて良かったと、やっと心から思えそうな予感とともに、私は部屋にいるツグミを想っていた。

そうだった。

新しい恋をすることでしか、過去を過去にはできないのだった。

恋に落ちた瞬間に込み上げてきた涙は、過去の失恋の傷から最後に湧き出たシャワーなのだ。最後の一滴を流し終えた今、私は初めて深い傷を、ほんとうの意味で乗り越えた。

ウソみたいな非日常の中で、私はぼんやりと宙を舞いながら、ツグミへの突然の恋心がホンモノだということを、とても静かに確信した。

とはいえ、すぐに成就する恋だとは思っていない。聞いてはいないが、ツグミには途切れることなく彼女がいる。今だけいないということも、考えにくかった。そして、ここ数年ツグミが破局を迎える理由は、毎回同じところに由来していた。彼に結婚願望がないこと。そこも、私は誰より知っている。

そんなことはどうでもいいと、初めて思っていた。結婚の約束や将来の安定よりも、一番に私が欲しいのは、ツグミからの気持ち••••••。十代の少女のようなことを純粋に思っている自分が不思議なくらいだった。

長年友達でいるわけだから、それもまた難しいハードルなのかもしれないけれど、ふたりきりで夜を過ごしてもいいと思う程度には、好意をもたれているはずなのだ。友達だけどこいつも女なんだな、と意識してもらうところまでは、今夜どうにか持っていけるかも••••••。

期待に高なる身体に浴衣を身につけて、美しい部屋へと戻る足取りは軽かった。とてもシンプルに、ふたりで過ごす夜が楽しみだったのだ。ドアを開ける指は、緊張から少し震えたけれど。

••••••。そんな私を迎えたのは、なんの冗談かと耳を疑うほどの、ツグミの大きないびきであった。••••••。

傷つきかけるほどの落胆を覚えて、フラフラと倒れるようにベッドのふちに腰掛けた。

ツグミは、服を着たままベッドの上で大の字になって眠っていた。少し横になるつもりが、寝てしまったのだろう。

ポカンと無防備に、口を開けているツグミの寝顔に、彼の授業中の居眠りを思い出した。ツグミはいつも、顔を机に伏せるどこか、宙を仰ぐように向いて熟睡した。教室にかかったカーテンの隙間から差し込んだ一筋の光が、ツグミの鼻の下から一直線に伸びる鼻水みたいに映っていたことがあって、あの画はほんとうに間抜けだった。

眠るツグミを見ながら、私は小さく肩を震わせて笑っていた。ガッカリしていたことすら忘れて、笑顔になっていた。長年の友情と芽生えたばかりの恋心が混じり合った、どこか懐かしい愛おしさが胸に込み上げた。

 

「あ、俺この曲好き」

ラジオから、耳覚えのあるメロディが流れてくる。

イントロクイズのようなスピードで「LUCY!」と私が叫ぶと、「そうだ、Lucy。ビートルズ。Lucy in the Sky with Diamonds.」と私のノリに笑いながらツグミが続ける。

なんの進展もないまま早朝にチェックアウトをして、私たちをのせた車は今、帰路につく。

日曜日なのに、午前中に一件、打ち合わせがあるのだそうだ。ツグミが起きて、部屋でコーヒーを飲んだらすぐに出るという流れになってしまった。

私は、ツグミが起きることを期待して寝ずにいたので深刻な寝不足だけど、こっそり裸になってバルコニーのお風呂にも入ったりして、天悠をしっかりと満喫した。

昨夜のぼってきたばかりのヘアピンカーブを、そのままくねくねと私たちは降りてゆく。

数時間後には、新宿に着くだろう。レンタカーを返却し、手をバイバイと振って別れたら、その後はそれぞれいつもの日常へと戻るのだ。

それでも、変化したツグミへの気持ちが、巻きもどることはないだろう。朝まで熟睡できるということは、私のことを女として見ていない証拠のようなものであり、不安しかないような状況なのに、それでも。この世の誰にも、私とツグミがふたりで過ごした天悠での時間を巻きもどせないという事実は、私をとても安心させた。

「これさ、ジョンレノンが、息子が描いた絵につけたタイトルを美しいと思って、それでつくった曲なんだって」

ツグミが私に、教えてくれる。

「ふうん、いいね」

「うん、いいよね」

私たちは、うなずき合う。いつか、私たちが子を持ち親になるところまで、勝手な妄想映像が脳裏をよぎる。そんな自分に、吹き出しそうになる。だって、思い出したのだ。

そうだ、恋ってこうだった。頭が悪く、なることだった。

「なに、なんで笑ってるの?」と黒目を流してきたツグミを、まっすぐに見つめて、

「ねぇ、ツグミ」

そこまで言ってから、やはり恥ずかしくなってしまって窓のほうへと顔ごと逃がす。でも、続きを言うことにした。

彼女がいるのか、聞かない選択をしたのは、そういうことだ。大学時代のツグミの元カノ、アリサはとっくに結婚していて二児の母。相手が自分の友達でなければ、彼女がいたって私には関係がない。

 

『——幸せになることから、もう逃げない』

 

昨日の昼にカフェで見たポスターのキャッチが、頭をよぎる。意を決して、でも窓から山の木々を見ながら、私は言った。

「また、来たいな、天悠。名前の響きまで、気に入っちゃった」

「••••••うん。いいよね。俺も好き。優子にそこまで気に入ってもらえて、嬉しいよ」

分からない。ツグミの今の返事に、脈があるのかないのか、私にはまったくサッパリ分からない。

新宿でバイバイした次の瞬間に、私はiPhoneを手にググるだろう。「男友達、恋愛、脈」などのキーワードを検索ウィンドーに打ち込んで、ツグミの気持ちを調べまくるのだ。そこに答えなど書いていないことなど百も承知の上で、それでもきっと止められない。

次に打ち込むキーワードはきっと、「男友達、振り向かせたい、愛される女」などの類いだろう。寝ることも食べることも忘れて、きっと私は考え倒す。••••••。

 

———幸せになりたいと思うことから、もう逃げられない。

 

希望を持つということの恐ろしさなら、身を持って知っている。思い出しかけるだけで、死にたくなるほど知っている。

けど、大丈夫だと思う。どんなに傷つけられたって、最終的にサバイブしたから、私は。

式場を決めた後での突然の婚約破棄を、一方的に切り出された破局を、なんとか生き延びたのだ。だからきっと私は今回だって、もし玉砕したとしたって、死んだりはしない。

自分に言い聞かせるようにそこまで思うと、意を決して、全身から勇気を絞り出して、でも窓の外を見たまま私は言った。

「また、泊まりたいな••••••、一緒に」

長年の、男友達を失うことをリスクに丸ごと差し出して、私はこの賭けに出る。

 

ツグミが欲しい。

どうしても、

私はツグミが

とても欲しい。

 

<おわり>

LiLyさん

作家。81年神奈川県出身。蠍座。N.Y、フロリダでの海外生活を経て、上智大学卒。最新刊「ここからは、オトナのはなし〜平成の東京、30代の女、結婚と離婚〜」がロングセラーを記録中。現在「オトナミューズ」、「NYLONJapan」、「NUMEROTOKYO」などで連載。

インスタグラム:@LiLyLiLyLiLycom

maegamimamiさん

群馬県出身。女性誌・ウェブ・広告・ブランドとのコラボレーションなどを中心に活動するイラストレーター。また、クッションをはじめとする刺繍作品を展開するアーティスト。女性をモチーフにした作品が主。TBS系連続ドラマ「カルテット」のポスタービジュアルのイラストデザイン及び、主題歌「おとなの掟」(Doughnuts Hole×椎名林檎)のジャケットを制作。初の作品集「maegamimami Grab The Heart」(宝島社)が発売中。

 
女子旅にぴったりな噂の宿
「箱根小涌園 天悠」。

居心地のよい宿は、女子旅に欠かせないもの。こだわり派の女子におすすめしたいのが2017年4月20日にオープン予定の「箱根小涌園 天悠」。箱根の“自然”と“和”のおもてなしをコンセプトにした宿で、非日常感を味わうことができます。絶景の大浴場露天風呂や各部屋に設置されたかけ流し温泉の露天風呂など温泉地ならではのしつらえのほか、スパも併設。ロケーションを生かしたアクティビティなど、ここでしかできない体験ができるのも魅力です。

箱根小涌園 天悠(てんゆう)
住所 神奈川県足柄下郡箱根町二ノ平1297
開業 2017年4月20日
予約 受付中
http://www.ten-yu.com/

※すべての情報は2017年3月30日時点のものです

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